建築の専門学会誌にて「まちの家事室を作りたい!参画と協力を生み出す居場所ができるまで」が掲載されました

住宅会議115号に、泉北ラボのコンセプト「ヒト・モノ・コトが出会う広場的空間」という点を評価いただき、子どもと発達と住居という企画に掲載いただきました。

住宅会議は歴史ある学会誌で、住む事や住まいを学術的に捉え、議論している雑誌です。

泉北ラボのコンセプト「ヒト・モノ・コトが出会う広場的空間」という点を評価いただき、子どもと発達と住居という企画に掲載いただきました。

住宅会議は歴史ある学会誌で、住む事や住まいを学術的に捉え、議論している雑誌です。

下記、掲載いただいた内容です。

まちの家事室をつくりたい!参画と協力を生み出す居場所ができるまで

公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団
代表理事 宝楽陸寛

  1. 概要

泉北ラボは、まちの家事室をコンセプトに、ヒト・モノ・コトが出会う「広場的空間」として2022年1月17日泉北ニュータウン(以下、NT)に開設した。地域住民がのんびり読書をしたり、お茶を飲んだり、お裁縫をしたり、隣に居る、その人と挨拶して少しおしゃべりして、何気ない日常が、豊かな時間に変わるカフェ&レンタルスペースとして誕生した。机1つからレンタル可能なレンタルスペース機能、ランドリー付き喫茶機能、寄付で運営される地域の公共冷蔵庫「コミュニティフリッジ」機能を有し、暮らしの困りごとを中心に捉え、機能を提供する私設の公民館をコンセプトに事業を行っている。

※写真 泉北ラボ外観の様子

本稿では高齢化が課題の中心に語られる泉北NTにおいて子ども・保護者の社会的孤立を中心に置いて地域の居場所を住民参加型で実践したプロセスを報告する。

  • 背景
    • 日本で一番小さいエリアを対象としたコミュニティ財団

泉北ラボをスタートする背景の一つとして「これからの泉北をどうしたらいいか」を未来からの逆算で向き合う、ネットワークの土台が形成されていたことが一点目のポイントである。

泉北ラボを運営するのは公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団(以下、本財団)である。本財団は日本で一番小さいエリア・泉北NTを対象エリアとしてコミュニティ財団として主に30−40代が中心となって立ち上げた。

コミュニティ財団とは、市民の力で地域の課題解決を実現していくために地域内での新たな資金循環を行う機関である。生まれた背景は、2008年に行われた公益法人改革により、2009年に京都地域創造基金が設立され、各地で設立が続き、全国のネットワーク組織が結成されたことにある。一般社団法人全国コミュニティ財団協会には32の組織が加盟している。本財団も、協会の一員として地域課題の解決と新しい資金循環の仕組みづくりに取り組んでいる。

本財団の設立背景は、2017年12月に50周年を迎えた泉北NTにおいて、まちびらき50周年を機としたさまざまな取り組みを経て誕生した。50周年事業における市民委員、PTA会長、フリースクール主宰者など50周年事業での座談会などを通して、泉北の魅力をみんなで掘り下げた。しかし、「これからの泉北をどうしたらいいか」について語る前に、事業が終了した。「せっかく泉北に思いのある人たちが集い、歩み出したのに、もったいない。」そのような声が出ているのを知り、有志のメンバーで「地域座談会」をはじめたことが、財団立ち上げの第一歩となった。その後、2019年8月財団設立のために必要な基本財産300万円の寄付キャンペーンを実施した。その結果、304名・組織の支援を得て設立基本財産3,325,026円を達成し、2020年2月3日法人がスタートした。

  • コロナ禍に加速した家事支援ニーズ

泉北ラボをスタートする背景の2つ目のポイントとして「家事支援からまちづくりがはじまるのではないか」という仮説を調査で得たことにある。

財団設立と同時に、社会は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、学校の一斉休校などが実施された。感染症の拡大を発端とし、地域の経済活動だけでなく、日常が失われてしまった。休校・自粛が2ヶ月以上も及び、見通しが立たない状況が続いていた。そこで、本財団や地域のNPOは、子どもの育ちへの影響、社会的孤立状態の加速を懸念し、「新型コロナウイルスの感染拡大後の子どもたち」への影響を調べようと、2020年4月と7月の2回、泉北NT内の小学校の保護者98名・生徒小学生53名の合計200人に調査をおこなった。その結果に、これまで泉北NTがこぼれ落としてきた課題が、コロナを機に洗い出されたと私達は考えた。それは「社会的孤立状態」の常態化の懸念である。保護者の約半数から回答があり、約4分の1がひとり親世帯で、約4割が核家族だった。また、回答者の半数が「1人で子どもの面倒をみている」と答え、ひとり親世帯だけでなく、共働き世帯でも母親の家事の負担が大きいことがわかった。元々あったワンオペ育児(1人で育児をする)の負担がコロナ禍で顕在化した。 ※回答の円グラフ挿入

  • 問い直される1階のまちづくり

泉北ラボをスタートする背景の3つポイントとして、暮らしの豊かさは、1階づくりからはじまるのかもしれない、と考えたことに始まる。

本財団は、今すぐ必要な解決の取り組みとして、社会的孤立状態へ食を通じたコミュニティ支援をコーディネートする一方で、小学校圏域より、もう少し小さい半径500メートル圏内でのコミュニティの見直しが必要ではないかと検討を行った。その結果、たどり着いたのが2016年、「1階づくりはまちづくり」をモットーに展開する株式会社グランドレベルの掲げる「まちの家事室」という言葉である。まち・建物の1階をより公共的にひらき、市民の能動性を高める日常をつくることで、エリアの価値と市民の幸福度の向上を目指し、生まれた。2018年に墨田区に洗濯機やミシン、アイロンなどを備えた「まちの家事室」付きの喫茶店「喫茶ランドリー」をオープンし、年齢や職業に関わらず、多様な市民が集い、様々な活動に使われている場所だ。

グランドレベル代表取締役社長 田中元子氏は「まちの個性を強く打ち出すと、楽しく、何度でも行きたくなり、沢山の人が何度も訪れれば、そこはおのずと公共になる。行政がこれまで主導してきたこととは全く違う手法で、公共はつくれるのではないか」と語る。1階のまちづくりとして「まちの家事室」というコンセプトを大前提に置いた。「コインランドリー事業」ではなく「いろんな人が訪れるきっかけをつくる」ということに刺激を受け、泉北NTの1階から、まちづくりを促す、豊かな暮らしを考え、行動する人が集う場の構想を開始した。

  • 誕生のプロセスは「参加と協力」

泉北ラボ実現に至るプロセスに、地域を中心にキャンパスを設計した大学の存在があり、そしてチャレンジする人や組織のコミュニティの加速が存在する。

  • 大学と地域のコーディネート

泉北ラボは、学校法人みどり学園の運営する大阪健康福祉短期大学堺・泉ヶ丘キャンパスの敷地内に位置する。短大はキャンパス移転当時、「学生・教員、住民、NPO・企業が地域の問題を共有するプロセスを大切にし、信頼関係を育みながら、あいさつのできるコミュニティづくりをめざす」をコンセプトに置いたプロジェクトを発足していた。キャンパスの位置する地域にはすでに、連合自治会など地縁組織を中心としたネットワークが豊かであった。短大や拠点事業を行う本財団にできることは、その補完であることをプロジェクトでは何度も確認が行われた。コロナ禍で見えてきた課題と捉えていたのは、

  • 多世代のコミュニティの交流、多様なコミュニティでの対話の機会が減少し、スムーズな意思決定が生まれにくい。
  • 会議室や活動の場所が、自治会機能以外に物理的に人が集まる場所が減少している
  • 若者や学生が自治会活動に参加できる機会が止まっている

ことである。上記課題を補うために当初「図書カフェ」のコンセプト設計が行われた。①コミュニティ喫茶(居場所)として機能するための本を通じたコミュニティ育成で人材不足を補うこと②活動場所と図書カフェ機能を共存することで、活動の場と地域の愛着が生まれる場を提供する③打合せ、活動、本棚機能など変化する空間を設けることであった。

  • 豊かなコミュニティを生み出す関係資本

社会的孤立状態を改善するための家事支援、地域コミュニティからはじめるまちづくりを前提とした際に必要なのは、前に応援団をどれだけ生み出せるかといことであった。応援団とはいくつもの方法がある。まずはクラウドファンディングを実施し資源で関わる方法、他にはDIYを行うといった汗をかくことで関わる方法である。関わる方法をいくつか検討したのは、関わり方を増やすことは、泉北ラボに関わる人が設立後もが多様になると考えたからである。

そこで、みどり学園には学校の地域交流拠点として建物を建築して頂き、本財団を中心として結成した泉北ラボ実行委員会がクラウドファンディングを実施し、内装することにした。幸いにも、ワンオペ育児状態など社会的孤立状態にある背景を課題とした取り組みは大阪府と村上財団による「NPO等活動支援によるコロナ禍における社会課題解決事業」の認定を受け、クラウドファンディングで集めた額と同額の寄付を得た。クラウドファンディングでは、2021年6月末まで1ヶ月準備を行ない、本プロジェクトは236名のみなさまから3,013,000 円の財源を得た。当初の目標額を超える応援を集めることができた。また家事室の機能提供を通じたコミュニティの再構築事業の評価を受け、生活の質を高める子育て応援地域プラットフォーム「まちの家事室・泉北ラボ」創出事業として、公益財団法人トヨタ財団に支援を受けて実現した。

  • 新築だけどDIY

資金が確保され、いよいよ建築に入る段階となった。しかし、コロナ禍の世界的な建設用木材の不足と半導体不足で工期が遅れてしまった。そこでクラウドファンディングで生まれたコミュニティと、本財団の支援者をはじめとする関係者の機運醸成をめざして、2021年8月26日泉北ラボ建設工事がはじまる前夜、棟上げ式を実施して、参加と協力の第一歩を踏み出した。棟上げ式を行った。

次に泉北ラボに関わるさまざまな主体が集い、共通のゴールを共有するために、小さな勉強会と泉北ラボ実行委員会の発足を準備していた。その理由は、まちの家事室・泉北ラボが、誰にとっても参加・参画しやすい場となるために運営や、担い手のみなさまと議論を通して、進めたいと考えていたからだ。

また、外壁木部の色味について、外壁の色味など設計士からの判断依頼も、できる限りクラウドファンディング寄付者に相談を行ない参加型で施設ができる前からできるまでのワクワクを共有することを重視した。

  • 泉北ラボ実行委員会

実行委員会は泉北ラボを地域で共に育っていくために、コーディネーターと議論する場として設けている。参画者は、共にコンセプト練り上げたり、DIYイベントなどで共に汗をかいたり、オープン後はコーディネーターボランティアとして参加できる場をめざして開催していた。コンセプトを組み立てる際に、大事にしようと確認したのは

  • 誰にとっても居心地のよい空間づくり
  • 私設の公民館として支援者もボランティアも運営に参画する
  • 社会的孤立状態を編み直す、地域の新しい拠点を生み出す

である。現在、実行委員会は、NPOなど地域のプレイヤーとして活躍する方、おかずBOX(家庭への食事提供)などで子どもを見守る方、地域の事業所など多様な立場の市民が参加している。

  • まちの家事室としての泉北ラボ

以上のような背景とプロセスを経た泉北ラボでは、地域や住民参加型として下記の機能を提供している。

機能①まちの家事室

3台ずつの洗濯機・乾燥機、水道シンクがある家事室をレンタルしている。市民サークルが縫い物したり、寄付の本棚の本を読みながらコーヒーを楽しむなどコミュニティスペースを提供している。

機能②レンタルスペース

加えて個別にレンタル可能なスペース設け、会議室からワークショップなど小さな趣味から大人数のイベントが可能なスペースを提供している。

機能③寄付の本棚・コミュニティスペース

住民からの寄付の本で作る本棚「まちライブラリー」、寄付で運営される公共冷蔵庫「コミュニティフリッジ」を提供している。

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